Room6 2016年1月18日 語ると述べる
私たちは、話をする時或いは意思表示をする時、状況に応じて選ぶ言葉を使い分けます。
立場の違う人との会話 −−− 目上の人への話し方とその逆
年齢の違う人との会話 −−− 大人から子供への話し方とその逆
緊急事態の際の表現 −−− 話す、と言うよりは指示や時に命令口調
他には、様々な相互の間柄で使われる一般的な、褒め言葉や慰め言葉或いはいたわりの言葉などがあります。例えば、「ご苦労様」、「お大事に」など。勿論これだけで括られるわけではないが、これからの話は、かつては使われることがあったとしてもごく稀のケースとして、新たに生じた言葉になった“述べる言葉”についてて書きたいと思います。
文章が、そのまま話し言葉に成って使われる情況がそれです。但し、昔のお触れ、勅令などとは異なる情況で、伝える側と伝わる側の間の普通の一方通行的な会話として、話す→聴く関係で成り立っている状況であります。具体的には、講演会、演説、施設内、テレビ・ラジオのニュース報道など、一人対多数の間柄における会話に現れるものです。
幾つかの例を挙げてみます。
マニュアル言葉
お客さん相手の業界では、接客マニュアルで動作や言葉を規定して対応しているようですが、その中に気になる言葉が使われます。注文の料理をテーブルに届ける時などによく耳にしますが、あまりにも判り切った事でも「生ビールのお客様?」と、顔ぶれを見ようが見まいが、子供たちとお父さんだったとしても確かめます。
こんな時、どうして、お父さんに「生ビールお持ちしました」と言えないだろうかと思います。或いはご両親と子供の場合で、それが奥さんの注文だったとしても、旦那さんの前に建前上置いたほうが良いと思います。これをしないのはたぶん、ウェイトレス・ウェイターごとに違った言い方をした時に不適切なことばが出る危険性が在るからです。其の為の「○○のお客様?」が使われるのでしょう。
失礼の無いように、というわけでしょう。
接客の為のマニュアル言葉の原点ではないかと思われるものに、江戸吉原遊郭の中だけで使われた「ありんす語」があります。これは格式をもたせたと言うよりは、遊女たちがお国訛りで勝手に対応していては困るからです。伝わらない、時に下品に成りかねないからです。
「やんだおめえ、止してぐれ〜」ではいけない。「いやでありんす」
「そんなパカスカ言わんときいな」 → 「後生だから、ちっとものを言わずにいておくんなんし」
江戸町人の八ッつぁンなどがたまに遊びに行って、ありんす語を聞きかじって来ては浮世風呂などで余興に真似た事だろうと思います。 当時の川柳に、こんなのがありまた。
「日本から ありんす国は 遠からず」
動詞の名詞化
テレビの中では、天気予報を語る気象予報士が −−− 気持としてはサービス精神で言っていると思うのだが −−− 「○○が必要です」という言葉に、耳障りな印象を感じます。動詞を名詞化して話すのです。
「所により雷雲が発生しますので注意が必要です」 この言葉にもっと切迫感を持たせると、「警戒が必要です」となる。街の中をきょろきょろ四方に目を配って歩かなければならない気持ちに成りそうです。どうして注意しましょうとか警戒して下さいと言わないのでしょうか。寒くなりますからコートが必要です、みたいな物扱いにしてしまうのです。更に ・・・
・動きが見られます
・怒りの態度を表わしています
こんな言葉は、元来会話の中では使われません。テレビ等の、送り手と受け手の間に媒体があって空間が隔てられている関係の中で生まれまたと思います。
他にもいっぱいあると思うのですが、最後の例として拒否のことばがチョッと変になって居ます。
・これより先の立ち入りはご遠慮ください
・当店ご利用以外の駐車は、3万円の科料を申し受けます
要するに、不行き届きな人に遜って(へりくだって)いる。近頃は市井の人の中にも逆切れしやすい人が増えて、まともな日本語(「此処から先は立ち入り禁止です」とか「無断駐車禁止」)で表わしているのに、ムカつく人が増えている。どんな嫌がらせをしてくるか判らない。其の為に、なだめすかした言葉を創りあげてしまう。
そういう事は、正直もう「結構です)」、もとい「止めてください」と言ったところでお終いです。
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