30:【一気呵成】 出典:詩藪 しそう)・内編・近体七言
《 意味 》

 物事を大急ぎで仕上げること。文章をひといきに書き上げること。「一気」はひといき。「苛」は息を吹きかけること。凍えて鈍くなった手に、息を吹きかけ暖めて、ひといきに文章を作ってしまうという意味。

《 訳文 》

 (明の故応麟 こおうりん)は、著書である『詩藪』の中で、唐代の七言律詩を論じ、名作の誉れ高い崔顥 さいこう)の「黄鶴楼」や、沈佺期 ちんせんき)の「古意」は、内容はすばらしいが、格律の面で欠点がないわけではない、としりぞけ、杜甫の「登高」の第一章こそ、古今律詩の最佳品であるとする。)「風急に天高く」(という出だしの「登高」)は全編を通して、一句ごとに規律に従っており、一句の中では、一字一字が全て規格に合っている。しかも、内容は首尾一貫して途切れることのないのは、ひといきで書き上げたからである。

 
《 原文 》

 若風急天高、則一篇之中句句皆律、一句之中字字皆律、而実一意貫串、一気呵成

 風急天高の ごと)きは、則ち一篇の中、句句皆律あり、一句の中、字字皆律ありて、 まこと)に一意貫串 かんせん)、一気呵成なり

 
◎ 一言多い解説
    杜甫  「登高」

風 急 天 高 猿 嘯 哀
渚 清 沙 白 鳥 飛 廻
無 辺 落 木 蕭 蕭 下
不 尽 長 江 滾 滾 来
万 里 悲 秋 常 作 客
百 年 多 病 獨 登 台
艱 難 苦 恨 繁 霜 鬢
潦 倒 新 停 濁 酒 杯


風急に天高くして 猿嘯哀し
渚清く 沙白くして 鳥飛び廻る
無辺の落木 蕭蕭として下り
不尽の長江 滾滾として来る
万里悲秋 常に客となり
百年多病 独り台に登る
艱難 苦(はなは)だ恨む 繁霜の鬢
潦倒(ろうとう) 新たに停む 濁酒の杯