EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第25話

 ある占い師の話。
数百人を無作為に選び、その半分に「明日、巨人は勝つ」残りの半分には「明日、巨人は負ける」という予想を知らせる。次の日、巨人が勝てば、負けると予想した方には何も知らせずに、勝つと予想した方の半分に、また「明日、巨人は勝つ」残りの半分には「明日、巨人は負ける」という連絡をする。そうやって同じ事を続けていくと、次の日の巨人軍の勝ち負けを当て続ける謎の人物からの電話を受けている「人」を作り出すことができる。連絡する方は何も予想をしているわけではないのだが、連絡をもらう方は大変な予言者がいると思うか、野球に八百長があるのか、といろんな事を想像してしまう。

 さて、当たる予想を聞きつづける人には「運」があるのだろうか?連絡する方からみればこれは「必然」であり、「運」でも何でもない。必ず(この場合引き分けという結果は想定しないことにする)当たり続ける人が生まれるのだ。

 今年の前半はライブドア騒動でもちきりだった。長者番付にはIT関連企業の経営者が名前を連ねている。彼らの書籍も好調な売れ行きを見せている。そんな世の中の雰囲気と、株式会社一円から設立出来るようになった事もあって、結構な「起業ブーム」だといえるだろう。最近のIT関連企業の歩みを見ていると、先の「巨人が勝つ、負ける」と同じ仕組みが働いているように思える。その時代の勢いのある産業へ起業した経営者達は、その多くが失敗し、中には詐欺などの犯罪者として罰せられるものも出てくるが、必ず一握りの経営者が成功者として世に名前を知られるようになる。これは彼らの「運」だけではなく、時代の「必然」なのだ。多くの起業家がいればいるほど、その中で生き残り、巨万の富を手にする経営者が現れてくる。

 起業の基本は「ものを売る力」である。セールス、営業が弱いと、どんなに良い商品、アイディアがあってもお金にはならない。口コミの力だけでは「父ちゃん、母ちゃん」の規模なら十分食べていけるだろうが、企業として成長していくことは難しい。逆に、どんなに変な商品でも営業が強ければ、企業は成長していく。極端な話、商品がなくても営業は物を売ることが出来る。客に期日通りに商品が届きさえすれば、何もなくても起業可能なのだ。

 それを突き詰めていくと、営業力があれば商品はなんでもいい、手元になくてもいい、アイディアだけでもいい。まず売る。そして開発できる企業から仕入れて客に届ける。しかし、そのままでは何時まで経っても自転車操業のままだ。そこで、商品を仕入れるよりもそれを製造している企業を買収してしまえ、という発想が出てくるのだ。これが昨今のM&Aである。

 そして、数千・数万の起業家がこの手法を取れば、その中から一握りの起業家が「必ず」生き残る。こう考えると「起業」とは簡単なことのように思える。本当は、自分が一握りの「成功する起業家」になるのかどうかの「運」や「保証」は誰にも判らないのだけれど。

 長者番付を見ていると、時代の勢いで名前を連ねている人たちは、この「必然」の人たちで、その起業が社会に対して継続的に貢献しているかどうかが一見して判らない、反面、毎年名を連ねている人の企業は私達の生活の中に「風景」として存在していることが多い。起業は良い事だと思う。社会や個人に活力を与える。しかし、その後の企業のあり方まで考えた経営者であってもらいたいと思うのは私だけだろうか。

 
5月某日。自宅で晩酌。缶ビール(発泡酒ではない)3缶。肴はスーパーのから揚げとチーズ鱈、プロセス6Pチーズとポテチ。このところおとなしい酒が続いている。


   おかわり