EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第18話     8月2日

  最近まったくプロ野球を見ていない。居酒屋へ行くとプロ野球放送を点けてはいるのだが、以前のようにボリュームを上げ、お客が乗り出してみているなんてことはない。視聴率も10%を切っているという。

 近鉄、オリックス、ジャィアンツの渡辺オーナー、古田選手会長、ライブドアの堀江社長と、登場人物がにぎやかなわりには、酒の肴になりきれていない。プロ野球に白けているのか、他のコンテンツの底辺が上がったためにプロ野球が埋没して見えるのか、理由はともあれ、この現象が今年急に起きたものではないということへの考察や評論がほとんどないことが不思議でならない。

 「野球ってさ、どこの会社も広告宣伝費で(運営を)賄ってるって言うじゃない。でもさ、子会社の損失を肩代わりしたら、寄付になるんじゃないの」
 「よくあるよね、当局との見解の相違があって、とか言って新聞沙汰になる申告漏れのことだろ。そう言えば野球で聞かないよね」経済学部というか法学部だろう、私の後ろにいた二人の学生が面白い観点で話しをしていた。

 「40億円の赤字って尋常じゃないよ。選手の年俸にそんなに掛かるかい。そもそも、プロ野球の収支ってどうなってんだ。140試合で半分は自分のところの主催だから、球場で一人1万円使うとして、平均で2万人入れば年間140億円で、球場使用料やら、まぁ出入りの業者が売上は持っていっちゃうとしても、30億や40億は残ると思うんだよね」
 「俺もそう思うんだよ。40億の赤字っておかしいよ、でも誰もそのことに触れないんだよね。社長は威張ってるしさ」

 私もこれはおかしいと思っていた。しかし、近鉄は上場企業。株主の監視が働いているはずだから、もしかしたらマスコミが報道している入場者数が水増しだったり、選手の年俸そのものも相当アバウトな数字なのかもしれない。

 「この前ちらっと聞いたんだけど、3Sってあるジャン。セックス、スポーツ、シネマのこと。知ってる」「ああ、アメリカの占領政策だろ。要するに戦後の日本人に余計なことを考えさせないようにってやつだよね」「そう。それをさ、税制でも後押ししてるんだって。損金の扱いが違うらしいんだよ、プロ野球や映画って」
 「いまだにそうなの」
 「いやぁ、調べてないから解からないんだけど、そうだとしたら辻褄が合うよね。広告費で落としても、寄付とか何とか税金の対象にならないんじゃないの。新規参入させないってのもその辺に理由があるんじゃないかな」

 この話は私もびっくりした。本当なら、今回の騒動は政治マターの側面もある。選挙中にプロ野球問題に与野党とも触れなかったのは、こんな理由からだといえば飛躍し過ぎだろうか。

 「いずれにしても、情報化時代にプロ野球というコンテンツの開放を考えていかないと、いずれどこの企業からも買いたいなんて話しが出なくなっちゃうだろうな」
 「まったくその通り。1リーグだろうが2リーグだろうが何だっていいけど、ファンだけのプロ野球っていう考えじゃ衰退するばかりだね」

 私は中ビンを引っさげて彼らの話しに入っていった。税制のことはこの場では結論が出ていない。戦後税制の資料を紐解く必要がある。只不思議なのは、Jリーグが地域貢献ということで税制による支援を陳情しているのに、財務省は首を縦に振らないらしい。オーナーたちが言うプロ野球の伝統の中には公に出来ないことも含まれているようだ。

 ☆八月某日 高田馬場大手居酒屋。中ビン5本(内2本は彼らへ)焼き鳥セット、ホッケ、御新香。
インテリゲンチャな学生との酒は軽くて良い。

   おかわり