EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第17話     7月21日

 衆院選、参院選を問わず、選挙の後になると顔を出す店がある。土地柄なのかどうかわからないが政治談義で喧しい。投票日直前も面白いのだが、居酒屋評論家たちの論評は選挙後こそが面白いものだ。
「自民党が負けたっていうのは間違いだよな」メンバーが揃ったところでモッチャンが口火を切った。「そもそもマスコミがあざといんだよ。今回の選挙、共産党の惨敗でしょうよ、それじゃぁ視聴率も紙も売れないから、自民党が負けたって騒いでんだよ」
「そうは言うけど」タケシが突っ込む「目標の51議席を取れなかったんだから負けでしょう」

 「なにタケちゃん甘いこと言ってんのよ、与党は過半数を維持したんだぜ、それに改選議席51だったけど6年前は44議席だったんだぜ。選挙制度が政党主体になっているってことは、つまり議会制民主主義を具現化するシステムということだよ。だから議会の中での多数を維持することが選挙の勝敗の基準なんだよ」モッチャンの言うことは尤もだ。

 選挙制度を二大政党制に持っていったのは細川内閣の時代。それを支持したのは国民である。しかし、その結果に対しての理解が進んでいない現実がある。

 ケイが言う「だいたい世論調査で公明党より支持率が少し上だった共産党が議席ほとんど失ったのは、党にも問題があるのだが、支持者が選挙制度を理解できていないのも理由の一つだろうな。議員個人じゃなくて政党に支持を貰わなければならないのに、旧態依然とすべての選挙区に候補を出しては勝負にならない。全国をブロックに分けて票を集中させるべきだよ、公明党のようにね。批判があろうがなかろうが、政治は理想を語るだけのものじゃなくて、現実にどう対処するかが要諦だからね」

 二杯目のジョッキを振り回すようにモッチャンが言う「ケイの言うとおりだよ。イデオロギーの対立は終わってるんだよ。要するに冷戦の時は自民党というOSが上手く働いていたんだよ、自民党って言うのはある意味日本人が作った知恵なんだから。そうだなぁ、判り易く言えば東と西で32ビットのOSを使っていたと考えればいいよ。冷戦が終わって、64ビットのOSじゃなきゃ通用しないのに、32ビットの自民党をバージョンアップして使おうとしてきたんだよ。ところが選挙制度は64ビットに対応してるんだよ」

 煙草に火をつけながらタケシが「モッチャン。どこが判り易いんだよ。モッチャンの話はいつも判り辛いんだよ。要は、冷戦時代の自民党という富の分配機関がもう使えなくなってるってことだろ」
ケイも「だから半分選挙に行かないんだよ。昔良い思いした人だけが行ってるんだよ。だから余計に政党も候補者も未来のことを話さないんだよ。小さいパイを取り合ってるだけなんだよ。プロ野球と同じだよ」
 三人とも二杯目を飲み干している。彼らの話しには結論がないし、主張もない。政治というものに興味はあるのだが、生活との接点にリアリティーがない。そういうものが無党派層と呼ばれる人たちの特徴とまでは言い切れないが、国家という観念を欧米と比較した場合の違和感の元になっているのだと思う。

 イデオロギーが対立軸を生む道具とならなくなった時代に、国際社会の中における国家というアイデンティティーを、どのように確立していくかという問題は、主権者たる国民が背負わなければならない。果たしてこの国の政治は、いわゆる視聴者にそれを投げかけることが出来るのだろうか。

 ☆7月某日、目黒、権之助坂近くの居酒屋。枝豆、葱間3本、中トロ、ビール2本、

   おかわり