EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第16話     7月21日

 口髭を生やした眼鏡の男がまず口火を切った。「LがK・Bを買うなんて言うから,個人の買いやホールドが増えちゃって大損だよ」

 黄土色のジャケットを着た男が、煙草をにじり消しながら続けた。「Iは何とか引っ張ったんだが,これも個人にやられたな。中途半端に知ってる連中が一番困るんだよ」

 黒髪のスーツの男が力なく呟く。「結局利食えたのはM・Sだけか。」

 眼鏡が興奮した様子で吐き捨てる。「だいたい,KとOの話はOのKの買収ってことで話がついてたんだ。OのM&AとKのリストラがタイミングよく噛み合ったんだから、経済の常識だろ、この手の話は」

 スーツが言う「ファンや選手のことを考えろなんて素人はよく言ってくれるよ。構造的に客からの収入だけで成り立たないんだから。Gでさえ宣伝広告費で賄ってるんだから。だいたいデフレの時代に月給で五十万、百万単位で給料を上げろなんて言う選手も世間を知らないんだよ」

 ジャケットが続く「縮小しても質の高いものを見せていけば,自然と客は入るものなんだよ。興業として収支がちゃんと合うように、いずれは企業として市場に受け入れられるためにも,今回の改革はやり遂げないといけないんだよ。下手にLのHみたいな若造が入ってきて、何もかもオープンにされてみろ、鰻の練り餌にされちまうぞ」

 そのジャケットに徳利を差し出しながら眼鏡が言う「L、I、M・Sでやられた分をどこで取り返すかだな。まぁ新規の仕掛けは上手くいったとは思うんだが」

 スーツが「選挙次第でしょ、実際、実弾(タマ)に出来なかったわけだから、UやらOで幾らかまとめられたって、数が少ないんだから。個人の連中が頭に来るんだよ、あいつら1株,10株で一喜一憂でしょうよ,こっちはそんな数でやってないんだから、肝心なときに市場に玉が無いんだよ。政府にインターネットの規制でもやってもらわなきゃどうにもならないよ」

 ジャケツトも「情報化なんて言うが,情報なんてものは力のある人間が手にして初めて世の中の役に立つもんだ。猿に運転を教えたってレーサーにはなれないんだから」

 二人ともその通りだと頷いている。

 ジャケットは続ける「インターネットより読み書き算盤だよ、あとは道徳、分をわきまえるってことを日本人はもう一度覚えなきゃいけないな。ガキが訳の判らないことやって金を握るような世の中は駄目だよ。歴史とか伝統とか血筋とかがちゃんと財産として認知されないとな」

 彼らの素性を想像できるようなことは一切書かないでおく。「たわごと」とはいえ,イニシャルだらけの文章にせざるをえないことをお許しいただきたい。

 「この国」という場合、たいていの人は「日本」をイメージする。しかし,実際の暮らしの中ではまだまだ「おらが国」と言うイメージのほうが生活に密着している。「おらが国」は「日本」だと叫ぶ若者はどこで暮らせばいいのだろうか?大人になるまで、と規制をかけられている子供たちは、何時どうやって大人になればいいのだろうか?政治や経済の素人と玄人は、何をもって選別されているのだろうか?

 「おらが国」の村長たちは世界で戦う日本人たちを、何時になったら評価出来るのだろうか?  不味い酒というものがある。酔えないのに次の日に残る性質の悪い酒だ。「たわごと」は「たわごと」であって欲しい。人生いろいろ,たわごともいろいろ。そんなに簡単に片付けられないものが、この夜は胃の底の底に住み着いてしまった。

 ☆月某日 諸状況により詳細表示不可。

   おかわり