EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第15話     7月2日

 タイムリー?な株主に会った。飲酒リハビリ中である私は「大衆」という感じの店よりも、どこか気取ったカクテルバー等で、アルコールの回り加減に身を慣らしていた。 私より先にカウンターで飲んでいた男とバーテンの会話が耳に入ってきた。

 「マスコミも政治も、だらしがないんだよ。ライブドアが買いたいって言うんだから、買わせればいいじゃない」
「○○さんライブドア持ってるんですよね」
「だから言うんじゃないんだよ。俺が買ってから、1対100分割したろ,それで今度は1対10分割だよ、いいかい千円そこそこで株主になれる会社になったんだよ。社長が前に言っていたけど、子供でもこずかいの範囲で株主になれる会社。これは凄いことだろ。そんな会社がJリーグでも,プロ野球でも、球団を買えば凄いことになるだろ。スタジアムが株主で溢れるんだぜ。自分の会社を自分が直接応援できるんだよ。世の中が間違いなく変わるきっかけになるぜ」

 ライブドアの話は、私もいくらか聞いたことがあった。IT関連のベンチャーというと、とかくマスコミは胡散臭い取り上げ方しかしない。今回の買収騒動にしても、大手新聞社の社長が、伝統とか金があれば良いもんじゃないとか言って、歯牙にもかけない。これは、IT業界の恩恵を一番享受している、といっても差し支えないマスコミやメディアのとる態度だろうか。

 「近鉄の買収話で株がストップ高を付けたんじゃないのに,なぜまともな報道がされないんだろう。分割後の品薄感からのストップ高なんだから」

 このことは私も疑問に感じていたので話に加わることにした。
「総理のコメントが出ないのも変じゃないですか?選挙中とはいえ、いつもはすぐにコメントが出てくるのに。」
「良いんじゃないんですか。とかかい。無理だよそれは」
株主の男は続けた。
「この国の一番の問題は、保守勢力さ、とにかく蟻の一穴でもそれが崩れるのは政権与党としては困るんだよ、額に汗して働く夫と、それを支える妻、そして子供が数人。そんなモデルが支持者の基本さ。親父は巨人ファンで株なんかやらないんだよ。年金を頼りにして、お上の言うことには従順で,自衛隊が外国でどんな目に会おうが、何をしようが知ったこっちゃないんだ。」

 彼はだいぶキテいるようだ。今一つピンと来ない。

 「奴らにとって、判んないものは胡散臭くなきゃ駄目なんだよ、理解しようという努力はしないんだよ。何でもお上がやってくれると思ってるんだよ。この国は変わるんだよ。間違いなく。変化に気付いてない連中が、騒ごうが抵抗しようが,気付いてる奴らが抑え込もうとしようが、もう無駄なんだよ。」


 やっぱり僕には、まだまだリハビリが必要だ。頭の中で何か言いたいことがあるのだけれど。形にならないし言葉にならない。彼が言わんとしていること。つまり、日本は変わろうとしている。いや、もうすでに変わってしまっているのだろうが、時代についていけない人たちの中に、努力してついていこうとする人と,頭からついていきたくないから、時計をまき戻そうとしている人たちの二種類がいるらしい。

 政治のあり方や,今回のプロ野球の問題も,時計を巻き戻そうとしている人たちの中から出てきた、保守派の断末魔のようなものらしい。新しい企業を胡散臭い目で見るのはやめたほうが良いと思う。確かにIT関連企業の中には、訳の判らないものがあるのも事実かもしれない。

 しかし,彼らが開発するシームレスなソフトやプログラムなしでは、私たちの毎日が成り立たないことも事実なのだ。そして彼らが日夜取り組んでいるのは、その技術について来れなくても、意識せずに、誰もがその技術の恩恵を蒙ることが出来る社会の実現なのだ。プロ野球が日本の文化だというのなら,次世代の文化の担い手たちが球団経営に加わることは自然なことではないのだろうか。

 「ライブドアは売らないよ俺は。ずーっと持っていれば年金より頼りになると思ってるからね」

 私はこの男の言葉に「株をやるのに向いているのは,妄想を抱ける人間なんだよ」といった放送大学生の言葉を思い出していた。

 
7月某日、綾瀬のカクテルバー、ワインクーラー2杯とモスコミュール1杯。チーズサラミとナッツ盛り合わせ。テンションがなかなか取り戻せないでいる

   おかわり