EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
   第14話     6月26日

 この数ヶ月、物凄い量の個人情報が流出している。
昔で言う「名簿屋」のように分厚いバインダーで持ち出されているのではない。大半がCDロムの形で、バインダーとは比較にならない情報量がいとも簡単に世の中に放出されている。流用のされ方は、ほとんどがアンダーグラウンドな「お金儲け」に使われている。数打ちゃ当たる「架空請求書」。それを振り込ませるための「架空口座」。「架空会社」「架空社員」架空・・架空…・。

 バーチャル社会などという、手垢の付いた言葉は使いたくはないが、この新しい「産業」は、この社会で明らかに利益を増やし続けている。入り口の「個人情報」と出口の「金」だけがリアルな現実で、その間に存在しているものはすべて架空なのだ。まったくコンピューターと同じだ。中で何をやっているのかまったく伺い知れないし、理解もできない。ただ、ちゃんと入力をすれば、ちゃんと出力されるから、信じているだけ、使っているだけ。中で違法な事が行なわれていても、結果が合法なら、その罪には誰も気付かない。

 クレジットカードの4桁の暗証番号を誕生日にすることほど危険で愚かなことはない。4桁の数字が持つ組み合わせは、1万通りもあるのに、わざわざ365通りから選んでいるのだから。ちょっと考えてみよう、第1数字は0か1しかない。第1数字が0の場合、第2数字は1から9までになるが、第1数字が1の場合は第2数字は0、1、2の三つしかない。第3数字は0、1、2、3の四つ。第4数字は0から9まであるが、第3数字が3の場合は0か1しかない。

 ちなみに第1数字が0、第2数字が2、の場合、第3数字に3が来ることは無い。樹系図で考えてみると、一番少ない組み合わせは・1×3×1×2=6通り(1030、1031、1130、1131、1230、1231)このうちで1131は存在しないので、それを外した5通りの誕生日の人は、暗証番号に使ってはいけない。また誕生日と違うからといっても、これらの数字を暗証番号に使うことは大変に危険なのだ。

 暗証番号の解からないカードであっても、誕生日を使うという、おかしな常識が蔓延していれば、スキミングなしで暗証番号に近づいていけるのだ。CD機を壊して現金を抜き取らなくても、機械のメモリーに残っている、その機械にアクセスをしたカード情報が盗まれれば、そして、解読されずとも単にコピーしただけで、CD機とアクセス出来るカードを造ることは可能ではないのか。

 デジタル技術は、大量のデーターを、早く、正確に処理することを可能にしたが、利益享受者が自身で管理しなければならない責任まで処理しているわけではない。自分で管理しなければならないものは、現実の物であり、デジタル処理を通して得られるメリットも現実のものである。

 入り口と出口は現実の物。しかし、間に存在している物は架空の物ではない。見ることの出来る人間が、非常に少ないというだけで、現実は丸見えの状態なのだ。それらを見ることが出来る人間にとって、その空間は架空ではない。けれど、見えない人間達が、その空間を架空だと思い込んでいる。加害者の罪はもちろんだが、被害者の責任を問う声は少ない。

 企業の持つ個人情報漏洩のニュースの後、自分の情報も流出したのではと、設定を全て変更した個人はどのくらいいるのだろうか。詐欺の手口がマニュアルになっているところを見ると、ほとんどそんな人間はいないように思える。法的な制裁を回避するためにだけ、責任という言葉が存在するのではないことを社会が認識する時代ではないか。

 
5月某日、西●橋、●国料理店。OO派弁●士と。青島麦酒3本、紹興酒1本エビチリ、チンジャオ、春巻きetc……。用件10分、有益なご意見の拝聴が、約二時間。無茶苦茶疲れた。


  おかわり