第7話 8月28日
私が水商売をしていた頃、まだホステスだったK子が東日暮里に店を出してから一年になる。初めの頃、週に二三度顔を出していたので、私がK子の特別な何かに思われていた時期があり、居心地が良いとは言えない店になってしまった。
その日は混んでいたので、私はカウンターに座った。そこにT氏がいた。占い師だという。本職なのか自称なのか分からないが、話を聞いてみることにした。占いトークと呼んで良いのかどうか解からないが、マニュアルが存在するという。二月、九月、十一月、これは注意を促す月だ。春先に観る場合「九月は注意しなさい」年の半ばだと「十一月は注意しなさい」年の後半だと「来年の二月に注意しなさい」という風に使うという。
大体、月の日数が少ないのと、生活の中でのイベントが少ない月なので、事故もおこり難いし、何もなかった場合に効果が大きい。占いを観て貰うというそもそもが、何か助言が欲しい訳だから、出来るだけ何も起こりにくい時期に、注意を向けさせる事で、結果的に顧客の満足度が上がる訳だ。
話し方としては、相手の目や口元は勿論、喉の動き(唾を飲み込んだりするタイミング)などで、向こうが本当に話したい事を捕えて、そっちのほうへ話を持っていく事が大切。相手はストライクを期待してくるが、こっちはストライクを放る必要はない、大体ストライクゾーンに放っていれぱいい、後は相手が勝手に喋ってくれる。それに対して常識的なことを答えれぱ良いだけ。
注意するのは、頭から当たり前のことを答えるのではなく、初めに少し非常識な事を言い、食い付いてこさせてから「でも」 「しかし」 「ただ」などで話を摩り替える事だ。そんな話をしてからT氏は私の手相を観てくれた。
サーピスだと言って、何種類もの私を登場させてくれた。 「芯が強そうに見えても、脆いところがある」私。 「弱そうに見えるところがある反面、芯が強い」私。 「曲がったことが嫌いだが、ちゃんと妥協する事が出来る」私。 「大雑把な面も持っているが、繊細なところもある」私。こうやって書くとみんなバラバラに見えるが、T氏が話すと、みんな当たっているように聞こえるから不思議だ。まるで手品の種明かしを見るようなうな奇妙な体験だった。
T氏は、日付が変わる前に、明日は仕事が早いからと腰を上げた。別れ際、彼は私に、「あれでしょ、貴方、K子ママのあれでしょ」みんな解かっているんですよ、と言いたげな彼の微笑みを見て、こいつ本職ではないな、自称だろうな、それにしても話が上手いものだ。私はそう理解することにして、彼を肴にK子と閉店まで飲むことにした。
八月某日、東日暮里のパブ、アサヒスーパードライ3本、リザーブ1/2本、あたりめ、キスチョコ、野菜スティック、チーズサラミ、K子は店の鏡月Green半分位かな。
お代わり
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