EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
  第4話   5月29日

 肋間神経痛、歯根のう胞、蜂窩織炎(ほうかしきえん)これは、この一か月私が苦しめらている症状だ。まあ、歯が痛くなれぱ、神経痛は消えていくし、足が痛くなれぱ歯は痛くなくなる(尤も治療をしているからだが)そういう訳で今現在は足の蜂窩織炎に悩まされている。

 こんな時は酒を飲まなけれぱ良いのだが、この連載のためにはそうもいかない(酒飲みはには飲む理由が無限にあるものだ)痛い足を引き摺りながら病挿院近くのミニクラブのドアを開けたのは、五月晴れには程遠い細かい雨の降る夜だった。

 「日本は本当に不思議な国だ」商杜に勤めているという、藤色のネクタイの男が話し始めた。なんでも、世界各地を歩いていると日本製のシステム(ハードだけでなくソフトまで)があちこちにあるらしい。鉄道や交通網、その管制システム、製造ラインを統括するコンピューターシステム、工業製品なども、製造されたのはアジアの他国でも基本設計や企画は日本のもの、そういうものが沢山あるらしい。ところが国内では、日本のものよりアメリカ製のもの(特にソフトウェアー)が圧倒的に多い。

 行政に近い業界ほどその傾向が高いという。「その通りだと思うが、私はまったく逆の事を感じています」私のとなりの席にいた医者だという男が話に入ってきた。彼によると、日本の役所は、海外で新しい薬や、治療法が開発されても、まず承認しないという。変な話、国内で承認されている薬の新しい治療方法が海外で確立されても、例えぱ、○○病の薬が△△病にも効果があるとわかった場合、日本では△△病への治療は認められない、患者が強く希望して使う場合は保険外治療になるし、その場一合は他の全ての治療も実費になってしまう。

 商杜マンは日本は日本の良いものを評価するのが下手だと言うし、医者は日本は外国の良いものを評価するのが下手だと言う。業種が違うと世界の見方が違ってくるのは当たり前だが、こうも逆さまなのは面白い。また、どちらもよく言う自虐的というのではなくて、日本よもっと頑張ってくれと工一ルを送っているように聞こえるのが面白い。

 考えてみよう。日本人の頭の先から足の先までにどれだけの外国人の手が(とりわけアジア人の)かかっているか。そう考えると日本は本当に豊かだと思う。しかし、二人の話を聞いていると、日本はもっともっと豊かになれる可能性があるように思えてくる。最後に蜂窩織炎なのに酒なんか飲んじゃ駄目だと、強く言われたのを付け加えておく。

 5月某日、葛飾区D病院近くのクラブS。焼酎トライアングル3分の2本。乾きもの、チーズ、医者、商杜マン共にヘネシー。医者はチーズサラミ、商杜マンは乾きもの、キスチョコ。日付が変わる前に2時間半ほどで切り上げにした。

    お代わり