EXIT
松橋 帆波様  お酒のたわごと   
  第3話   4月28日

 
最近パチンコへ行くと、携帯電話が場所取りの道具として使われている光景をよく見る。あれは誰かに持っていかれたりしないのだろうか?と気になっていた。その日「巨人の星」(リーチが掛かると大リーグボール養成ギプスを着けた飛雄馬が数字を震える手で掴みに行くやつだ)というパチンコ台で儲かったので飲みに行くことにした。

 フリーで高くなさそうな、(パチンコに勝ってもセコイ)スナックを探して、黄色い看板のRという店に入った。私と同じようにパチンコに勝って流れる客が多いようで、しばらくすると十坪程の店内は活気にあふれ始めた。

 「ママ!また電話持っていかれちゃったよ」「俺もだよ」クマの模様のセーターとストライプシャツの男がニ人、店のママと話し始めた。見ているとママはカウンターの中から携帯電話をニ台持ってきて「しょうがないわねぇ」とか言いながら彼らに手渡した。私は、怪しい携帯電話の話をいくつか聞いていたので、こういう店でも、そのような取引が行なわれているものなのかと、勝手に得心していた。

 ところが耳をそばだてて彼らの話を聞いてみると、私の想像していた事とは違っていて、彼らが手渡された電話はパチンコの場所取り用の物だということが判った。ある程度アルコールが回った私は、彼らとママに話しかけ、その物の素性を聞き出すことが出来た。町中に雨後の筍のように乱立する携帯電話の店。当然、過当競争ゆえに潰れていく店も出てくる。それらの店から、ディスプレー用の携帯電話がゴミとして大量に捨てられると言う。(ディスプレー用なので機械は内意されていない、中に重さを現物と同じにする厚めの板が入っている。ボタン等の触感はほとんど同じように作られている)それをママが貰ってきて、店の客にパチンコの場所取り用にと配っていたのだ。

 なるほど、実際に使えない電話なら持っていかれたとしても悪戯の心配はないし、煙草を置いておくよりはるかに実用的だ。初めに書いた、私の疑問が解けていった。早速、私もーつ貰うことにした。二つ折りになるグレーのやつだ。パチンコだけでなく、マンガ喫茶や川柳の句会でも使えそうだ。しかし使えないとはいえ、外側の部品は本物と同じものを使っている。螺子一つとっても、中国製のものもあるが、下町の工場でー個、二円、三円の仕事で作られているものだ。それが大量にゴミになる。売られるときもバカみたいな安値で売られている。

 この国の製造業はこのままでいいのだろうか。沢山の倒産、失業のニュースを思いだし、複雑な気分になってしまった。

 4月其日。北千住スナックR。ビール3本。乾きもの、お新香。ディスプレー用携帯電話一台(フリーで入って頂いたので百円置いてきた)

   お代わり