電車の中の目的外

 晩秋から春先まで。電車、列車には暖房がはいっている。首都圏環状山手線など、終点の無い電車の中には、暖をとる為に幾時間も座席で眠りこけて居る様子の乗客を見掛る。荷物が多い人である。無防備であっても、被害の心配をしていない人である。色々な人を乗せて、電車は線路の上を走っている。ここに、或る目的外に乗る乗客の生態を題材にすることに、心を痛めながらも登場してもらった。20年ほど時を遡る話です。

 男性Aの事。
目を光らせて獲物を狙っていた。彼は女性の敵である。立派な体躯をしている。通勤時間帯の車内で時々みかけた。朝の時もある、夜の時も。彼は獲物の女性を後ろから攻めて、身体の自由を奪う事が多い。周りには彼がどういう行為をしているのか当然判るのだが、何故か咎める人は居ない。膝が女性の尻を割って入り込み、其の女性は爪先立ちになっているのを見て私は一度、間に“割って”入り、解いたことがあった。女性には、同性の同乗者がいて、普通に話をしていたのが、ちょっと何故?と思った。怖かったからとしか思えない。男の目は、跳んでいる感じ、怖い。

 女性Bの事。
痴女がいることを知った。残念ながら被害に遭う所まで誘われず、私は逃げた。彼女の近づきかたはこうである。其の時私は立って本を読んでいた。右手が空いていて、自然に脇に降ろしていたら、普通にOLの形をしている人が私の手の甲に股間を押し付けてきた。オヤ、押されて接触したのではない。当然、相手のどの部位が触れてきたのかも判る。『ほほう、これが世に言う痴女かァ』と思うようなスレた自分ではなかった。返答に、押し返すなりすれば隅の方に誘われて、男は大儲け、濡れ手にアレと成る筈であった。

 脈が無ければ、スッとその場をはなれます。その日以後、時々満足げな彼女を車内で見掛けました。男達が、順番待ちをしている場合があります。こんな時、争いごとなどしたくないのでしょう、男達は数分間でバトンタッチして行きます。その女性は、誘いを掛ける時も快感に充たされている時も、終始うつむいています。只、誘いを掛ける時、チラっと上目使いをします。悪く無いじゃん、普通に待っていても男女交際は出来るのになァ。

 『AとBが出逢った』あとの事。
イトーヨーカドーの食料品売り場で彼(A)と彼女(B)が仲良しになっているのを見掛けた。勿論自分が二人に遭遇してから後のことです。ひっょとしたら夫婦になったかと見紛う程、朗らかな会話を交わしながら、備え付けのカゴを二人で持ち合って買い物をしていた。健康な顔をしている。Aの目に怪しい光は無いし、彼女も顔を上げて彼を見つめている。呆気に取られてしまったとはこの時の感想であった。

 密やかに追い求めた青い鳥を手に入れた二人か、神が止まれずに引き合わせた二人か。解らない。